ホールドアップタイムって、そもそもナニ?

一瞬の停電でサーバはどうなる?
西部劇で保安官が犯人に拳銃を向けて “Hold up!” と叫ぶことがありますが、今回のテーマ「ホールドアップタイム」はちょっと意味が違います。データセンターの電源ラインを想像してみてください。通常はビクともしない安定した交流電源が供給されていますが、雷や系統切替などで ほんの一瞬、電圧がゼロになる ことがあります。「一瞬だから問題ない?」——残念ながら、そうはいきません。電源が止まれば、CPUはフリーズし、メモリ上のデータは消え、最悪の場合はファイルシステムが破損します。
だからこそ電源ユニット(PSU)には「電源が落ちた後も、しばらく出力を維持し続ける」能力が求められます。この 「しばらく」の長さ を定量的に表したのが、ホールドアップタイム(Hold-up Time) です。
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ホールドアップタイムとは?
ホールドアップタイム とは、交流入力(AC入力)が突然失われた瞬間から、直流出力(DC出力)が規定の電圧範囲を外れるまでの時間のことです。単位はミリ秒(ms)で表され、値が大きいほど「停電に粘り強い電源」ということになります。

英語の “Hold up” には「持ちこたえる」という意味があり、出力電圧を維持して持ちこたえている時間をホールドアップタイムと言うわけです。この「持ちこたえている」時間に、システムが安全なシャットダウン処理を完了したり、UPS(無停電電源装置)が起動して給電を引き継いだりします。
エネルギーの源はコンデンサ
では、入力がないのに出力を維持できるのはなぜでしょうか?PSU内部には 大容量の電解コンデンサ(バルクコンデンサ) が搭載されており、ここに電荷が蓄えられています。AC入力が途切れた後は、このコンデンサが「小さなバッテリー」として働き、後段の回路へエネルギーを供給し続けます。
エネルギーが蓄えられる量は、コンデンサの容量(C)と充電電圧(V)で決まります。

- 容量(C)が大きい → 蓄えられるエネルギーが増える → ホールドアップタイムが延びる
- 負荷(消費電力)が大きい → エネルギーの消費が速い → ホールドアップタイムが縮む
要するに「大きな水タンクほど長持ちするが、蛇口を全開にすると早く空になる」イメージです。
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規格で決まっている「最低ライン」
ホールドアップタイムには業界標準の下限値が定められています。代表的なものを見てみましょう。
| 規格・仕様 | 要求値 | 測定条件 |
| ATX仕様(デスクトップPC向け) | 16 ms 以上 | 定格負荷時 |
| ATX12VO仕様 | 17 ms 以上 | 定格負荷時 |
| 80 PLUS認証 | 規格値に準拠 | — |
| サーバ・データセンター向け (OCP / CRPS等) | 16 ms ~ 20 ms 以上(仕様による) | 定格負荷時 |
「なぜ16~20 ms程度?」 という疑問を持った方は鋭いです。商用電源(50/60 Hz)の1サイクルはおよそ16.7~20 ms。つまり「交流の1周期分だけ停電しても耐えられる」ことを最低限の基準としているのです。
試験では何を測っているのか?
PSUのホールドアップタイム試験は、おおむね以下の手順で行われます。
① 試験構成

② 試験手順
- PSUを定格負荷で動作させる(実運用に近い条件にするため)
- AC入力を突然遮断する(高速スイッチまたは電源のゲート機能を使用)
- DC出力電圧の波形をオシロスコープで記録する
- AC遮断の瞬間から、DC出力が規定値(例:12 V系なら 10.8 V)を下回るまでの時間を計測
③ 着目するポイント
- 遮断タイミングの位相:AC波形のどの位相で遮断するかによってバルクコンデンサの初期充電量が変わるため、最も厳しい条件(コンデンサ電荷が最小になる位相)での試験が求められることがあります
- 負荷条件:軽負荷では長く、重負荷では短くなるため、定格(100 %)負荷での計測が基本です
- 温度条件:電解コンデンサは温度が下がると容量が低下するため、低温環境でのテストもポイントになります
ホールドアップタイムが短いと何が起きる?
値が規格を満たしていない場合、現場ではこんな問題が起きます。
- 瞬時停電でシステムがリセット・クラッシュ する
- 書き込み中のデータが破損 する(特にSSD・HDDのキャッシュフラッシュ中)
- UPSへの切替が間に合わない(UPSの出力切替には数ms~数十msかかる)
- NMI(ノンマスカブル割り込み)によるシャットダウン処理が未完了のまま電源が落ちる
特にデータセンターでは「ハードウェアが壊れなくても、データが壊れれば実害」ですから、ホールドアップタイムは軽視できない試験項目です。
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ホールドアップタイムを改善するには?
PSU設計の観点から、ホールドアップタイムを延ばすための主な手法を紹介します。
方法① バルクコンデンサの大容量化
最も直接的なアプローチです。ただし、コンデンサは体積・コスト・ESR(等価直列抵抗)とのトレードオフがあります。
方法② 入力電圧範囲の最適化
AC-DC変換後の直流電圧(バス電圧)を高めに設計しておくと、放電できる電圧幅が広がり、同じコンデンサでもより多くのエネルギーを取り出せます。
方法③ ホールドアップ専用回路の追加
一部の高性能PSUでは、バルクコンデンサとは別に 専用のエネルギー蓄積回路(バックアップコンバータ) を設け、意図的にホールドアップタイムを数十ms以上に延ばす設計も存在します。
まとめ
| キーワード | 内容 |
| ホールドアップタイム | AC入力断からDC出力が規定値を外れるまでの時間 |
| エネルギー源 | PSU内部のバルクコンデンサ(電解コンデンサ) |
| 典型的な規格値 | 16 ms ~ 20 ms(定格負荷時) |
| 試験の核心 | 「最も厳しい位相・最大負荷」で規格値をクリアするか |
| 短いと困ること | 瞬停でのシステムクラッシュ、データ破損、UPS切替失敗 |
ホールドアップタイムは地味に見えて、「システムの信頼性の底を支える」重要な電源特性です。PSUの仕様書を眺めるとき、ぜひこの数字に注目してみてください。





