電磁両立性って、そもそもナニ?

はじめに
あなたのスマートフォンが突然フリーズしたり、テレビの画面にノイズが走ったり、病院の医療機器が誤作動したり――こんなトラブル、実は「電磁波」が原因かもしれません。
現代社会は、目には見えない電磁波であふれています。スマホ、Wi-Fi、電子レンジ、自動車、鉄道、放送局の電波塔…。これらすべてが電磁波を発し、同時に電磁波の影響を受けています。
そんな「電磁波だらけの世界」で、機器たちが仲良く共存できるようにする仕組み――それが電磁両立性(EMC:ElectroMagnetic Compatibility)なのです。
電磁両立性の基本的な考え方
「出さない」と「耐える」の両立
電磁両立性とは、簡単に言えば
- 他の機器に迷惑をかけない(不要な電磁波を出さない)
- 他の機器の影響を受けない(外部の電磁波に耐える)
この2つを両立させることです。
例えるなら、マンション住まいのマナーに似ています。自分の部屋で大音量で音楽を流さない(迷惑をかけない)、そして隣の部屋の生活音が聞こえても気にならない(影響を受けない)――これと同じ考え方です。
なぜ電磁両立性が重要なのか?
- 安全性の確保
医療機器の誤作動、航空機の計器異常、自動車の電子制御システムの不具合――これらは人命に関わる重大事故につながる可能性があります。 - 機器の正常な動作
せっかく購入した家電製品が、他の機器の影響で正常に動作しなかったら困りますよね。電磁両立性が確保されていれば、複数の電子機器を同時に使っても問題なく動作します。 - 電波の有効活用
限られた電波の周波数帯域を、みんなで効率よく使うためにも、不要な電磁波(ノイズ)を減らす必要があります。
電磁両立性のふたつの側面
EMI(電磁妨害:ElectroMagnetic Interference)
これは「迷惑をかける側」の話です。電子機器が動作するとき、意図せず電磁波を放出してしまい、それが他の機器に悪影響を与えることを指します。
具体例:
- ドライヤーを使うとラジオにノイズが入る
- 電車の中でペースメーカーへの影響が懸念される
- 蛍光灯の近くでAMラジオを聞くと雑音が入る
EMS(電磁感受性:ElectroMagnetic Susceptibility)
こちらは「迷惑を受ける側」の話です。外部からの電磁波に対して、機器がどれだけ影響を受けやすいか(弱いか)を表します。
具体例:
- 携帯電話の近くでスピーカーから「ジジジ」という音がする
- 雷が落ちたときにパソコンがフリーズする
- 強力な無線局の近くでテレビの映りが悪くなる
電磁波はどこから来る?
- 放射性EMI(空間を伝わる)
電波として空間を伝わってくるタイプです。- 放送局の電波
- 携帯電話の電波
- Wi-Fiの電波
- 電子機器から漏れ出る不要な電波
- 伝導性EMI(ケーブルや電源線を伝わる)
電線やケーブルを通じて伝わってくるタイプです。- 電源線を通じて伝わるノイズ
- LANケーブルを通じて伝わる妨害波
- アース線経由で入り込むノイズ
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電磁両立性を確保する技術
では、実際にどうやって「出さない」「耐える」を実現しているのでしょうか?
シールド(遮蔽)
金属製のケースで電子機器を覆うことで、外部からの電磁波を遮断したり、内部からの電磁波漏れを防いだりします。スマートフォンやパソコンの内部を見ると、金属製のカバーがたくさんあるのはこのためです。
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フィルタ
電源線やケーブルに特殊な部品(フィルタ)を取り付けて、不要な高周波ノイズを除去します。ACアダプターに付いている円筒形の膨らみ(フェライトコア)もその一種です。
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配線・レイアウトの工夫
基板上の配線を工夫したり、ノイズ源となる部品を適切に配置したりすることで、EMIを低減できます。
アース(接地)
適切なアース処理により、不要な電磁波を大地に逃がします。
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規制と規格
世界中で、電磁両立性に関する規制が設けられています。
主な国際規格
- IEC(国際電気標準会議)による規格
- CISPR(国際無線障害特別委員会)による規格
- 各国独自の規格(日本のVCCI、欧州のCEマーク、米国のFCCなど)
これらの規格に適合していない製品は、市場に出すことができません。製品のパッケージや本体に「VCCI」「CE」などのマークが付いているのを見たことがあるでしょう。これらは電磁両立性の試験に合格した証です。
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身近な電磁両立性の例
電子レンジ
電子レンジは非常に強力なマイクロ波を使用します。もしシールドが不十分だったら、使用中にWi-Fiが切れたり、テレビが映らなくなったりするでしょう。金網の入った窓がついているのは、中が見えるようにしつつ、電磁波を漏らさないための工夫です。
自動車
現代の自動車は「走るコンピュータ」と呼ばれるほど電子化されています。エンジン制御、ABS、エアバッグ、カーナビ、ドライブレコーダー…。これら多数の電子機器が、お互いに干渉せず正常に動作するよう、厳格なEMC設計が施されています。
病院
多数の医療機器が稼働する病院では、電磁両立性が特に重要です。そのため、携帯電話の使用制限エリアが設けられていたり(最近は緩和されていますが)、医療機器自体も高い耐性を持つよう設計されています。
5G時代の新たな課題
5G(第5世代移動通信システム)の普及により、電磁両立性の重要性はさらに高まっています。
- より高い周波数帯域の使用
- より多くのIoT機器の接続
- 自動運転車など、より高い信頼性が求められるシステム
これらに対応するため、EMC技術も日々進化しています。
まとめ
電磁両立性は、私たちが日常生活で意識することはほとんどありませんが、実は現代社会を支える重要な技術の一つです。スマホでゲームをしながら電車に乗っても、電車の制御システムに影響を与えない。電子レンジでご飯を温めながらリモート会議をしても、Wi-Fiが切れない。これらの「当たり前」は、電磁両立性という技術があってこそ実現しています。
目には見えない電磁波の世界で、無数の機器たちが「お互いに迷惑をかけず、迷惑も受けず」共存できる社会――それが電磁両立性が目指す世界なのです。

