直流電子負荷で直列運転ができない理由とは

はじめに
直流電子負荷は、電源やバッテリーの性能を試験・評価するために使用される重要な装置です。しかしながら、その使用方法にはいくつかの制約があり、その一つが「直列接続(直列運転)」ができないという点です。今回は、その理由について技術的な側面を掘り下げて説明します。
直流電子負荷のしくみと動作原理
直流電子負荷の主な役割は、直流電力供給装置(例:電源装置、バッテリーなど)の出力に電流を流し、その性能を試験することです。この装置は以下の機能を持っています。
- 電力の吸収: 対象機器からの電流を吸収し、その挙動をシミュレーション。
- 動作モード: 定電流(CC)、定抵抗(CR)、定電圧(CV)、定電力(CP)など
電子負荷は一般的に、パワーMOSFET(電界効果トランジスタ)などの半導体素子を用いて電力を消費し、負荷条件を制御します。この設計は電流制御の原理に基づいています。
合わせて読みたい
直列運転ができない理由
(1) 瞬時の電圧バランスが取れない
電子負荷が複数台使用される場合、それぞれの装置は基本的に独立して動作します。仮に、負荷同士を直列に接続した場合、各負荷に印加される電圧を瞬時にバランスさせることはできません。
特に以下のリスクがあります。
- 電圧が均等に分配されず、ある負荷に過大な電圧がかかる。
- 耐圧を超える瞬間電圧が生じ、半導体素子(MOSFET)が破壊される。
(2) 負荷装置の設計上の制限
電子負荷装置は、定電流(CC)動作を基本としており、他のモード(CVやCR)もその上に成り立っています。しかし、直列運転では各負荷に正確な電圧を分配することが難しいため、想定外の動作を引き起こす可能性があります。
この理由は、以下のような設計上の特性に由来します:
- 半導体素子の耐圧限界が固定されており、これを超えると破壊される。
- 負荷装置自体は、電流制御で設計されており、定電圧制御には不向き。
合わせて読みたい
(3) 保護機能が働かない場合のリスク
多くの電子負荷装置には保護機能(例えば、過電流保護や過電圧保護)が備わっていますが、直列接続による瞬間的な電圧増加には対応できない場合があります。たとえアラームを通知する機能があったとしても、半導体素子自体がすぐに破壊される可能性があるため、直列運転は推奨されていません。
回避策
高電圧試験を行う場合は直列運転接続はせず、耐圧が高いモデルの電子負荷装置を選定するようにしてください。
まとめと注意点
直流電子負荷が直列運転できない主な理由は、装置設計や動作特性からくる瞬間的な電圧バランスが難しいこと、半導体素子の耐圧限界に起因します。この制限を理解し、誤った使用による破損を防ぐことが重要です。
負荷試験を行う際には、使用条件に適した装置を選び、メーカー提供のマニュアルやサポート情報を十分に確認してください。安全に高品質な試験を実施することが、電子計測装置の真価を引き出す鍵となります。