グリッドフォーミングインバータって、そもそもナニ?

はじめに

私たちの暮らしは、電気がなければ成り立ちません。スマートフォンも、冷蔵庫も、照明も、電車も、工場も…すべて電気の力で動いています。まるで、この世の中全体が大きな「電気のゆりかご」に包まれているかのようです。でも、この電気のゆりかご、いつも安定しているわけではありません。特に最近は、太陽光発電や風力発電といった「再生可能エネルギー」がどんどん増えてきていますよね。これらは環境に優しい素晴らしい発電方法ですが、一つ大きな特徴があります。それは、「お天気に左右される」ということ。晴れたり風が吹いたりすればたくさん発電できますが、曇りや風がない日は発電量が減ってしまいます。

そうすると、電気の量が不安定になって、ゆりかごがグラグラ揺れてしまうかもしれません。もしゆりかごがひっくり返ったら…大変なことになりますよね。そこで、この「電気のゆりかご」を安定させ、未来の電力システムを支えるかもしれない、ちょっと特別な技術が注目されています。それが「グリッドフォーミングインバータ」という、何だかかっこいい名前の技術なんです。

「グリッドフォーミングインバータ? 何だか難しそう…」と思うかもしれませんが、大丈夫!これから、このちょっと変わった名前の電気のヒーローについて、一緒に探検していきましょう。

第1章:電気の番人「インバータ」って、どんなヤツ?

グリッドフォーミングインバータについて話す前に、まずは「インバータ」という言葉そのものについて簡単に説明させてください。

インバータは、電気の世界の「通訳さん」のような存在です。

発電された電気には、大きく分けて2種類あります。

  1. 直流(DC):電池や太陽光パネルから生まれる電気で、流れる方向がいつも一緒。
  2. 交流(AC):家庭のコンセントから供給される電気で、流れる方向が常にクルクル変わる。

私たちの家で使う電気製品のほとんどは、この「交流」で動きます。でも、太陽光発電のように直流で電気を作る設備から、家庭で使える交流の電気を取り出すには、どうしたらいいでしょう?

そこで活躍するのがインバータです!インバータは、直流の電気を交流の電気に変換してくれる装置なんです。太陽光発電パネルでできた直流の電気を、家庭で使える交流の電気に変えて、家のコンセントや電力会社が管理する大きな送電線(これを「電力系統」とか「グリッド」と呼びます)に送る、大切な役割を担っています。

言ってみれば、太陽光パネルが作った外国語(直流)を、日本で通じる言葉(交流)に翻訳してくれる、頼りになる通訳さん、それがインバータなのです。

第2章:従来の「グリッドフォローイングインバータ」は、お行儀の良い優等生?

さて、これまでのインバータのほとんどは、「グリッドフォローイングインバータ」と呼ばれるタイプでした。少し長い名前ですが、「グリッド(電力系統)にフォローイング(追従する)」という意味です。

これはどういうことかというと、電力会社が作り出して供給している大きな「電力系統(グリッド)」という、言ってみれば巨大なオーケストラがあると想像してください。このオーケストラには、電気の「電圧」や「周波数」(電気が震える速さ)という、大切なリズムやテンポがあります。

グリッドフォローイングインバータは、この巨大なオーケストラの演奏をしっかりと聞き、そのリズムやテンポに合わせて自分の音を出す、お行儀の良い演奏者のような存在なんです。

  • オーケストラの指揮者(電力系統)が「このテンポで!」と指示を出せば、それに合わせて演奏します。
  • オーケストラ全体(電力系統)が安定している限り、インバータもそれに合わせて安定した電気を供給し続けます。

このタイプのインバータは、電力系統がしっかり安定している状態であれば、何の不自由もなく電気を供給してくれます。再生可能エネルギーがどんどん増えていっても、電力系統全体が安定していれば、問題なく活躍できる、まさに「優等生」なんです。

第3章:主役登場!「グリッドフォーミングインバータ」は、指揮者になれる!?

では、いよいよ本題の「グリッドフォーミングインバータ」の登場です。

グリッドフォーミングインバータは、「グリッド(電力系統)をフォーミング(形成する、形作る)」という名前の通り、従来のインバータとは一味も二味も違う能力を持っています。

先ほどのオーケストラの例で言うなら、グリッドフォーミングインバータは、自分で指揮棒を振って、オーケストラの演奏をリードできる、あるいは指揮者がいない時でも、自ら演奏の中心となってリズムやテンポを作り出せる、才能豊かな指揮者兼演奏者のような存在なんです!

具体的にどういうことかというと、グリッドフォーミングインバータには、次のようなすごい能力があります。

自分で電気のリズム(電圧・周波数)を作り出す従来のインバータは、電力系統が作り出す電圧や周波数に合わせるだけでしたが、グリッドフォーミングインバータは、自分で「この電圧で、この周波数で電気を流そう!」と決めて、作り出すことができるんです。
電力系統が不安定になっても安定させるもし、電力系統全体が揺らいだり、一部が故障して不安定になっても、グリッドフォーミングインバータは自ら電気のリズムを安定させ、周囲に安定した電気を供給し続けようとします。まるで、ゆりかごが揺れても、赤ちゃんが落ちないようにしっかり支えてくれる頼れる親のようです。
停電からの復旧に貢献する(ブラックスタート機能)これは特にすごい能力です。もし大規模な停電(真っ暗な状態=ブラックアウト)が起きて、電力系統全体が機能しなくなったとします。従来のインバータでは、電気が来ていないので自分も動けません。しかし、グリッドフォーミングインバータは、何もない状態から自ら電気を作り出し、少しずつ電力系統を再構築していくことができるんです。まさに、真っ暗な空間に電気の光を灯し、ゼロから電力システムを立ち上げることができる「ヒーロー」と言えるでしょう。

第4章:なぜ今、グリッドフォーミングインバータが注目されるの?

なぜ、こんな「指揮者」のようなインバータが、今、これほど注目されているのでしょうか?それは、現代の電力システムが抱える課題と、未来に向けた希望に深く関係しています。

再生可能エネルギーの導入拡大太陽光や風力発電が増えるほど、電力系統は不安定になりがちです。グリッドフォーミングインバータがあれば、再生可能エネルギーが作った電気を、系統全体を安定させながら送り出すことができます。これにより、もっとたくさんの再生可能エネルギーを安心して使えるようになるのです。
電力系統の安定化電力系統が大きくなればなるほど、どこかでトラブルが起きると全体に影響が出やすくなります。グリッドフォーミングインバータは、電力系統が不安定になった時に、自ら安定化の力となることで、私たちの暮らしに欠かせない電気の供給を守ってくれます。
災害に強い電力システム(マイクログリッド)地震や台風などで大規模な停電が起きた時、グリッドフォーミングインバータのブラックスタート機能は非常に重要です。 例えば、小さな地域や建物単位で独立した電力網「マイクログリッド」を作っていた場合、グリッドフォーミングインバータがあれば、外部からの送電が途絶えても、その地域だけで電気を作り、供給し続けることができるようになります。これは、災害時のレジリエンス(回復力)を高める上で、非常に大きな意味を持つのです。

まとめ:未来の電気を支える縁の下の力持ち

グリッドフォーミングインバータは、まだ開発途上の部分もありますが、私たちの生活を支える電気の未来を大きく変える可能性を秘めています。

再生可能エネルギーが主役となり、災害にも強い、しなやかで安定した電力システム。そんな未来を実現するために、この「グリッドフォーミングインバータ」は、目に見えないところで、しかし確実に、その重要な役割を担っていくことでしょう。

電気の「ゆりかご」を安定させ、私たちに安心と便利をもたらしてくれる、まさに「縁の下の力持ち」。それが、グリッドフォーミングインバータという、未来の電気のヒーローなのです。

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