【2024年最新版】スイッチング電源のリップル測定とは

スイッチング電源とは

本稿でのスイッチング電源はAC/DCコンバータのことを指します。AC/DCコンバータとは…

AC100Vなどの交流を入力するとDC5Vなどの直流が出力されるもの

以下のようなスイッチング電源の基本回路を見ながら追いかけてみましょう。入力された交流を全波整流回路で直流に変換し、その直流をスイッチング周波数で高速にON/OFFすることで高周波を作り出し、スイッチングトランスの二次側に送ります。二次側に現れた高周波を半波整流回路で直流に変換し、このときの出力電圧を制御回路に渡してスイッチング用半導体を制御して出力電圧が規定の電圧になるように自動調整します。(スイッチング電源について詳しくは、スイッチング電源って、そもそもナニ?をご覧ください。)

スイッチング電源の基本回路例
  • 交流
    スイッチング電源の入力で交流電圧(100V, 50Hz等)が印加されます。
  • 全波整流回路
    入力の交流を直接整流しています。ここでコンデンサC1に充電されるのは100Vを超える高い電圧の直流になります。このC1で平滑しきれなかったものが出力に現れると「ACリップル」となります。
  • スイッチングトランス(高周波トランス)
    スイッチングトランスは高周波用(※スイッチング周波数)となっており、小さくて軽いのが特徴です。
  • スイッチング用半導体
    コンデンサC1に充電されている直流をスイッチング用半導体により(スイッチング周波数で)高速にON/OFFを繰り返し、スイッチングトランスの一次側をドライブします。このスイッチングにより発生するのが「スイッチングノイズ」となります。
  • 半波整流回路
    スイッチングトランスの二次側に現れた高周波をダイオードによる整流回路で再度直流に変換し、出力平滑コンデンサC2を充電します。この直流電圧を制御回路に渡します。このC2で平滑しきれなかったものが「スイッチングリップル」となります。
  • 制御回路
    出力電圧(C2の両端電圧)が目標値の電圧より低いときはスイッチング用半導体により電圧を上げる方向に制御し、逆に電圧が高いときは電圧を下げる方向に制御します。

※スイッチング周波数は製品によって異なりますが、一般的に数十kHzから数MHzの範囲となっています。

スイッチング電源のノイズとは

このように、スイッチング電源は文字通りスイッチを高速にON/OFFして電力を伝送するものですからON/OFF時にノイズが発生するのは避けられず、スイッチング電源の出力をオシロスコープで波形観測すると本来の直流以外に次のようなA~Eのノイズ(またはリップル)が現れるのが一般的です。

リップルノイズ波形の模式図
スイッチング電源出力波形の模式図
種類説明
リップルノイズ
(図のA部分)
スイッチングノイズ(C)とACリップル(E)の合計値
リップル
(図のB部分)
スイッチングリップル(D)とACリップル(E)の合計値。
スイッチングノイズ
(図のC部分)
スイッチング回路に起因して発生したと思われるノイズ
スイッチングリップル
(図のD部分)
平滑回路に起因して発生したと思われるリップル
ACリップル
(図のE部分)
商用周波数(50 / 60Hz)に起因して発生したと思われるリップル

※JEITA規格RC-9131D スイッチング電源試験方法(AC-DC)内の定義に準拠しています。

スイッチング電源の試験ではスイッチングノイズ(C)とスイッチングリップル(D)の測定が基本となっていることから、他の項目(A, B, E)について本稿では割愛させていただきます。

スイッチングノイズ

実は、身の回りのものでスイッチをON/OFFするときにノイズが発生するということを体感することができます。電気掃除機など消費電力の大きな機器の電源をONしたときに大きな電流が流れ、このときにノイズを発生してラジオに雑音が入ったりテレビの画面が乱れたりすることがあります。
スイッチング電源の内部では、スイッチのON/OFFを高速に繰り返しているため、この部分に関しては「ノイズ発生器」と言えるかも知れません。(実際の製品ではノイズが減少するように対策されています)このようなスイッチングで発生したノイズをスイッチングノイズ(またはスパイクノイズ)と呼び、非常に高い周波数成分を持っているのが普通です。

スイッチングリップル

スイッチングリップルは、スイッチングノイズとは明確に区別されています。スイッチングノイズがスイッチのON/OFFによって発生した雑音(ノイズ)であるのに対して、スイッチングリップルは出力の平滑回路で平滑しきれなかった電圧(リップル)でありスイッチングノイズとは性格が異なります。 
このため、一般的にスイッチングノイズとスイッチングリップルは個別に(分離して)測定することが求められます。また、出力の平滑コンデンサが劣化して容量抜けが発生するとスイッチングリップル電圧が大きくなることから、このリップル電圧の上昇を部品交換時期の目安とすることもあります。

実際の測定について

スイッチング電源のリップルノイズ測定については、JEITA規格RC-9131Dにより測定方法等を規定しており、詳細は同規格をご参照ください。

JEITA規格Webサイト https://www.jeita.or.jp/japanese/public_standard/

本稿ではRC-9131D規格の概要についてまとめてみました。

使用する測定器オシロスコープまたはデジタルリップルメータ
測定器の周波数帯域100MHz以上(※1)
使用するプローブ1.5m長の50Ω同軸ケーブルを使用し、測定器の入力端で終端(※2)
コモンモードノイズの影響が認められる場合、差動プローブの使用が望ましい

※1 測定周波数帯域について
特にスイッチングノイズ測定では測定周波数帯域の違いが測定結果に大きく影響する場合があるので注意が必要です。このため、測定条件の中に「測定器の周波数帯域」を明確にすることが必要です。

※2 終端抵抗について
測定入力端を伝送線路のインピーダンス(50Ω)で終端するのは一般的なやり方ですが、スイッチング電源の出力を測定する場合、終端抵抗に高い直流電圧が印加される可能性があるため抵抗での終端は適していません。このような場合、以下のように高周波のみ終端される「高周波終端抵抗」が用いられます。

補足)測定の自動化について

リップルノイズ測定をオシロスコープで行うことはもちろん可能ですが、「自動化」を前提とすると話が変わってきます。オシロスコープでは波形のp-p(Peak to peak)測定によりスイッチングノイズの測定は可能ですが、スイッチングリップルのみを分離して測定することは難しいため、これについては目視測定となり自動化には適していません。

このような場合、リップルノイズメータを使うと下図のようなパルス幅デューティ比較方式によりスイッチングノイズとスイッチングリップルを分離して数値化測定することができるため、容易に自動化することが可能です。

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