SPICEって、そもそもナニ?

はじめに
「SPICE」という言葉を聞いて、「スパイス?料理?」と思った方もいるかもしれませんが、ここでお話しするのは料理の話ではありません。電子回路のシミュレーションをするためのソフトウェア、それが「SPICE(スパイス)」です。
初めて聞く方にもわかりやすいように、このツールが何をするものなのか、どんな特徴があるのか、そしてどんな場面で使われるのかを詳しく見てみましょう。
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SPICEとは?
SPICEは、Simulation Program with Integrated Circuit Emphasisの略で、1970年代にカリフォルニア大学バークレー校で開発されました。名前の通り、集積回路(IC)を中心にした電子回路を解析・シミュレーションするプログラムです。
電子回路と聞くと難しそうですが、簡単に言えば、コンピュータ上で回路を仮想的に動かして、その動作をチェックできるツールのことです。これにより、回路を実際に作る前に設計段階で試行錯誤ができるようになります。
SPICEの特徴(長所と短所)
◎長所
- 時間とコストの削減
実物を試作する前に動きをシミュレーションできるので、試作や材料費、手戻りのコストを減らせます。 - 高精度な解析が可能
抵抗やトランジスタ、コンデンサなどの部品や回路全体の動作がリアルに再現されます。DC(直流)、AC(交流)、過渡応答といった複数の解析ができるのも強みです。 - フリーでも使える
オリジナルのSPICEはオープンソースで提供されたため、現在でも多くの派生版がフリーまたは低コストで利用できます(例:「LTspice」など)。 - 多様な用途に対応
集積回路設計だけでなく、アナログ回路や電源回路の設計、さらに高周波回路やデジタル回路にも利用されています。
△短所
- 学習コストが高い
SPICEを使いこなすには「ネットリスト」という特殊なフォーマットで回路を記述する必要があります。初心者にとっては敷居が少し高いと感じるかもしれません。 - 複雑なモデルでは時間がかかる
モデルが複雑になるほどシミュレーションに時間がかかり、場合によっては処理が重くなることもあります。 - パワエレなどでスイッチング回路の解析に時間がかかる
一般的なアナログ回路ではサイン波形のように信号が連続的に変化することが多いですが、スイッチング回路ではパルス波形(矩形波)のように高速に変化(スイッチング)するタイミングと変化しないタイミングが存在します。このような場合、高速に変化している部分を基準にしてシミュレーションすることになり、変化していない部分にも微細な解析をすることになります。その結果、シミュレーションに時間がかかる訳です。(※)
※このような欠点を改善したスイッチング回路用のシミュレータScideamなどがあります。
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主な用途
SPICEはどんな場面で使われているのでしょうか?以下に代表的な用途を挙げます。
- IC(集積回路)の設計
トランジスタやダイオードを使った回路が、想定通りの特性を持っているかを確認します。ICメーカーでは必須のツールです。
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- アナログ回路の設計
オーディオ機器や通信機器の増幅回路など、アナログ処理を行う回路の設計で使われます。 - パワーエレクトロニクス
電源回路や電力制御回路でも、SPICEが動作確認や効率化の検証に役立ちます。 - 教育や学術研究
技術者や学生が回路設計やその動作を学ぶための教材として、SPICEは多くの学校や研究機関で利用されています。 - 高速通信や高周波回路設計
5G対応の通信モジュールや高周波アンプ設計にも利用されており、その応用範囲は広がり続けています。
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SPICEの派生ツール
オリジナルのSPICEは進化を続け、多くの改良版や派生ツールが登場しています。以下はその一例です。
派生ツール名 | 概要 |
PSpice | 商用版の改良SPICE。使いやすいGUIも追加されています。 |
LTspice | フリーで使えるSPICE系ツールで、アナログ回路設計者に人気です。 |
HSPICE | 高精度なシミュレーションが可能で、業界標準として広く使われています。 |
まとめ
「SPICEって何?」という疑問に少しでも答えられたでしょうか?SPICEは、回路設計の現場でなくてはならないツールで、技術者たちの「こんな回路を作りたい!」というアイデアを形にするお手伝いをしています。
もちろん最初は取っつきにくいかもしれませんが、学んでいくうちにその便利さや可能性の広さに驚くことでしょう。これを機に、SPICEを使ってシミュレーションの世界へ一歩踏み出してみてはいかがでしょうか?