データセンター内設備の電源関連試験

はじめに
データセンターに設置されるAIサーバ用設備、特に超高速コンピュータ(GPU)の電源供給用スイッチング電源(AC/DCコンバータおよびDC/DCコンバータ)の試験用設備について、要求されると思われる主な仕様を考察します。
AI用GPUは非常に高い電力消費と、瞬間的な負荷変動(トランジェント)に対応できる高速な電源応答が求められるため、試験用設備にも高速応答性が要求されます。
合わせて読みたい
交流電源の要求仕様
スイッチング電源のAC/DC変換部への入力供給を模擬します。データセンターのインフラに合わせた仕様が求められます。
電圧 | ||
範囲 | AC 90V~264V (ユニバーサル入力対応) または AC 360V~440V (三相400V系)。データセンターの設計(単相200V/208V/230V/240V系、三相200V/400V系など)に合わせて、広範囲をカバーできることが望ましい。 | |
安定性 | 出力電圧変動率 ±0.5% 以下など、高い安定性。 | |
精度 | 設定電圧に対する出力精度 ±0.2% 以下。 | |
電流/電力 | ||
容量 | AI用GPUサーバーの電源ユニット(PSU)は、単体で2kW~5kW、あるいはそれ以上の高出力であるため、試験対象の最大入力電力よりも十分な供給能力が必要です。複数のPSUを同時に試験する可能性も考慮し、全体として10kW~数10kWクラスの容量が求められます。 | |
ピーク電流 | 突入電流試験や過渡応答試験のため、定格電流の数倍のピーク電流を一時的に供給できる能力。 | |
周波数 | ||
範囲 | 47Hz~63Hz(50Hz/60Hz両対応)またはそれ以上(例えば45Hz~500Hz) | |
安定性 | 周波数変動率 ±0.01% 以下 | |
その他 | ||
制御 | 電圧、周波数、位相、立ち上がり/立ち下がり時間を自由に設定・制御できること。 | |
波形模擬 | 正弦波だけでなく、電圧急変(Sag/Dip)などの電源異常を模擬できる機能 | |
力率 | 高い力率(0.98以上)で動作し、高調波電流歪み(THD)を低く抑える能力。 | |
計測機能 | 電圧、電流、電力、力率、高調波などのリアルタイム計測・表示機能 ※一般的には専用測定器(パワーメータなど)を使用することが多い。 | |
絶縁 | 試験対象とのグランド分離(アイソレーション)が可能なこと |
合わせて読みたい
直流電源の要求仕様
AC/DCコンバータの出力(DC/DCコンバータへの入力)や、GPUシステム内の特定のDCレールへの供給を模擬します。
電圧 | ||
範囲 | データセンターでは主に800Vdc、12Vdc、54Vdcで稼働しており、DC 10V~60V程度(別系統でDC800V)の可変範囲を持つ電源が望ましいです。 | |
安定性 | 出力電圧変動率 ±0.1% 以下 | |
高精度 | 設定電圧に対する出力精度 ±0.1% 以下 | |
リップル | 出力リップル・ノイズが非常に低いこと(例: 数mVp-p以下) | |
電流/電力 | ||
容量 | GPUサーバーのDC/DCコンバータへの入力電力はkWオーダーであり、AC/DCコンバータの出力容量と同等か、それ以上の供給能力が必要です。単体で数kW~10kWクラス、あるいは並列運転でそれ以上に対応できること。 | |
過渡応答 | 負荷変動に対する高速な応答性(瞬時的な電流要求に対応するため) | |
その他 | ||
制御 | 電圧、電流、立ち上がり/立ち下がり時間を自由に設定・制御できること。 | |
モード | 電圧(CV)、電流(CC)両モードでの動作が可能であること。 | |
電圧補正 | 負荷側の電圧降下を補償し、正確な電圧供給を保証するリモートセンシング機能 | |
保護機能 | 過電流保護(OCP)/過電圧保護(OVP)設定機能 |
合わせて読みたい
直流電子負荷の要求仕様
スイッチング電源の出力(AC/DCコンバータやDC/DCコンバータの出力)を模擬的に消費させ、その性能や安定性を評価します。特にGPUの動的な電力消費を再現することが非常に重要です。
電圧 | ||
範囲 | AC/DCコンバータの出力試験用: 10Vdc~60Vdc(800Vdc) DC/DCコンバータの出力試験用: 10Vdc~60Vdc | |
電流/電力 | ||
高電圧・大電流 | 12Vや54V(800V)試験では、数100A、数kW~数10kWクラスの吸い込み能力。複数の電子負荷を並列接続して容量を増強できる機能も非常に重要です。 | |
負荷モード | ||
定電流 | 設定された電流を吸い込む(CCモード) | |
定電圧 | 設定された電圧になるまで電流を吸い込む(CVモード) | |
定抵抗 | 設定された抵抗値になるように電流を吸い込む(CRモード) | |
定電力 | 設定された電力値になるように電流を吸い込む(CPモード) | |
動的負荷 | GPUの急激な負荷変動を模擬するため、ステップ状・パルス状・あるいは任意の波形で電流変化(トランジェント)を模擬する機能。 | |
高速応答 | 非常に高速な応答(例: 数A/μs~数十A/μs以上)が求められます。 GPUがアイドル状態からフル稼働、またはその逆への瞬時な遷移を正確に再現するためには不可欠です。 | |
シーケンス | 短い時間間隔での複雑な負荷パターンをプログラムできること。 | |
応答速度 | ||
制御帯域 | 数kHz~数十kHzの高い制御帯域を持ち、高速な負荷変動に追従できること。 | |
その他の要求 | ||
リモートセンス | 負荷側の電圧降下を補償し、正確な負荷端電圧を測定・制御できること。 | |
PC制御 | GPIB、LAN(Ethernet)、USBなどのインターフェースを備え、自動試験システムへの組み込みが容易であること。 | |
波形記録 | 内蔵メモリやPC連携により負荷側の電圧、電流の波形を同時に高精度でサンプリング・記録できる機能 | |
プログラマブル | 負荷モード、電流値、電圧値、時間、スルーレートなどを細かく設定・制御できること。 | |
並列運転 | 必要に応じて複数の電子負荷を組み合わせて大容量化できること。マスター/スレーブ制御により容易に拡張できること。 | |
保護機能 | OCP, OVPなどの保護機能を試験できること |
合わせて読みたい
まとめ
これらの試験設備は、AIサーバ用データセンターで稼働している電源系統の性能、安定性、効率、そして最も重要な高速過渡応答性を正確に評価するために不可欠です。特に急激かつ複雑な電流変動試験を実現するための高速応答電子負荷の選定が重要となります。