差動プローブの不思議

はじめに
「差動プローブ」という言葉を聞いたことがあるでしょうか? 聞き慣れないかもしれませんが、実はエンジニアや電子計測の分野では非常に重要な道具です。本記事では、その仕組みや他のプローブとの違い、さらにはなぜ必要なのかについて解説します。あなたもこの「不思議」を理解すれば、差動プローブの魅力にハマるかもしれません。
差動プローブとは?
差動プローブは、オシロスコープなどに接続して使う特別なプローブの一種です。その一番の特徴は「2つの測定点間の電圧差」を直接測定できる仕組みにあります。普通のプローブ(シングルエンドプローブ)が「ある信号と地面(GND)」の電圧を測るのと異なり、差動プローブはグラウンド間の電圧ではなく2点間の電圧差分を測定します。そのため、回路の特定のポイント間の電位差(=差動信号)を正確に捉えることができます。
例えば、USB通信やRS-485、CAN通信のように差動信号が使われるデータ伝送回路では欠かせないツールです。
なぜ差動プローブが必要なのか?
「普通のプローブでも測れるんじゃない?」と思うかもしれません。しかし、差動プローブが必要な場面では、普通のプローブでは測定が困難だったり、不正確な結果を招いたりします。その理由は以下の通りです。
グラウンドが異なる場合
通常のプローブは、測定する回路とプローブが同じグラウンド(共通接地)を持たなければいけません。しかし、現代の電子回路では、異なるグラウンドを持つ回路間で信号のやり取りをする場合が多く、通常のプローブを不用意に接続すると回路が短絡してしまう可能性があります。それを避けるために、グラウンドを基準にしない差動プローブが役に立ちます。
ノイズの多い環境での影響を除去
差動プローブは、信号に含まれるノイズを効率的に取り除ける設計になっています。これを「コモンモードノイズ除去」と言います。この機能により、ノイズの多い環境下でも、正確な信号測定が可能になるのです。
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フローティング信号の測定
フローティングとは、グラウンドから分離された状態を指します。このような状態の信号を測る場合、通常のプローブでは正確な値を得るのが困難ですが、差動プローブはこれを得意とします。
他のプローブとの違い
特徴 | 一般的なプローブ | 差動プローブ |
用途 | 一般的な回路測定 | 差動信号、フローティング信号 |
測定方法 | 信号とグランド間の電圧を測定 | 2点間の電圧差を測定 |
同相ノイズの除去 | 不可 | 可能 |
プローブ用電源 | 不要 | 必要 (※) |
価格 | 比較的安価 | 高価 (※) |
※当社製差動プローブDP-100のように電源不要で低価格なものもあります。
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差動プローブの動作の秘密
差動プローブの内部では、次のような仕組みが働いています。
差動入力
プローブの先端には2つの入力端子があります(+端子と-端子)。これらで捉えた2点間の電圧差が差動信号そのものになります。
ノイズ除去機構(CMRR)
差動プローブは、外部から侵入するコモンモードノイズ(2点間で共通するノイズ成分)を効率的に取り除く「共通モード除去比(CMRR)」を備えています。例えば、DP-100という差動プローブでは、コモンモードノイズを周波数100MHz時に40dB(=1/10000)も低減できます。
測定範囲と仕様
差動プローブは、それぞれのモデルで測定できる電圧や周波数帯域が異なります。例えば、あるモデルでは「最大±1,000V」の高電圧差を測れるものもあれば、高周波特化型のものも存在します。そのため、用途に合ったモデルを選ぶ必要があります。
差動プローブの用途例
実際に差動プローブが活躍する場面をいくつか挙げてみましょう。
用途 | 概要 |
スイッチング電源やインバータ回路の測定 | これらの回路ではフローティング信号や高いdv/dtを伴う信号が多いため、ノイズ耐性の高い差動プローブが最適です。 |
シリアル通信信号の解析 | USBやRS-485などの差動信号を直接観測・解析できます。 |
電源リップルノイズの測定 | 電源に発生する微小なリップル電圧を高精度に計測するために使われます。 |
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差動プローブ使用時の注意点
適切なプローブを選定する
測定周波数や電圧範囲に適合するプローブを使わないと、正確な測定ができない可能性があります。
校正を行う
使用のたびにプローブの校正を行うことで、精度を確保できます。
プローブの扱いに注意
ケーブルや先端部を無理に引っ張ったり広げたりすると、性能の低下や損傷の原因になることがあります。
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まとめ
差動プローブは、電子計測の現場で「普通のプローブでは測れない」領域に対応してくれる心強いツールです。特殊な測定が求められる場面での差動プローブは、まさにエンジニアの救世主と言えるでしょう。