電波伝搬の不思議

はじめに

スマートフォン、テレビ、Wi-Fi、そして地上デジタル放送——私たちの日常生活に欠かせないこれらのツール。そのすべてに使われているのが「電波」です。しかし、電波とはいったい何でしょう? なぜ目に見えないのに、地球の隅々まで届き、私たちの生活を支えているのでしょう?

ここでは、電波の正体、その種類や特性、そしてその奇妙で魅力的な伝搬の特徴について探ってみましょう。

電波とは?

「電波」とは、空間を伝わる電磁波の一種です。電磁波とは、電界と磁界が互いに影響しながら空間を進む波のこと。この波の特性は、周波数や波長によって決まり、光や赤外線、紫外線、X線なども含まれる「仲間」の一つです。

電波が他の電磁波と異なる点はその周波数(1秒間に波が繰り返される回数)です。日本の法律では、周波数が3kHzから300GHz(ギガヘルツ)に該当する電磁波を「電波」と定義しています。この範囲内で、私たちは情報を通信したり、送信したりすることができるのです。

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電波の速さは約30万km/sで、光と同じスピードで進みます。これほど高速な存在が、どのようにして私たちに音声や映像、データを届けているのでしょうか?

多彩な電波の種類とその利用

電波は性質ごとに「周波数帯域」で分類され、それぞれの帯域で異なる用途に使われます。その分類と簡単な用途を見てみましょう。

名称(略称)周波数帯波長の長さ主な用途
極長波(VLF)3 ~ 30kHz10 ~ 100km潜水艦通信
長波(LF)30 ~ 300kHz1 ~ 10km電波航法、標準電波
中波(MF)300 ~ 3000kHz100 ~ 1000mラジオ放送(AM)
短波(HF)3 ~ 30MHz10 ~ 100mアマチュア無線、海外通信
超短波(VHF)30 ~ 300MHz1 ~ 10mラジオ放送(FM)、テレビ(アナログ)
極超短波(UHF)300 ~ 3000MHz10cm ~ 1m地デジ、Wi-Fi
ミリ波(EHF)30 ~ 300GHz1 ~ 10mm5G通信、レーダー

例えば、周波数の低い電波(中波や短波)は波長が長く、障害物を回り込む特性を持つため、山間部や海上でも利用される一方、高い周波数では波長が短く、大量の情報を送信できる反面、障害物に弱いという特徴があります。

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電波伝搬の特徴

電波が空間を進む際には、さまざまな現象が起こります。それらは物理学の巧妙で神秘的な法則に従っています。

直進性電波は何も邪魔がなければ、その名のとおり直進して進みます。これは光と類似しており、アンテナから放射された電波が障害物に遭わない限り、まっすぐ進む性質を示します。
反射地表から約50km~500km上空の範囲には、「電離層」と呼ばれる層が存在します。これは太陽から放射される紫外線や宇宙線が大気を電離することで形成される層です。電離層は電子濃度が高い層で、特定の周波数の電波を反射する性質を持っています。   短波伝搬と電離層反射 特に短波(HF)は、この電離層に反射することで、見通し範囲を超えた遠距離通信を可能にします。この仕組みを利用し、海外ラジオ放送やアマチュア無線などが行われています。   電離層の構造と変化 電離層にはD層、E層、F層があり、それぞれ高度が異なります。日中と夜間、季節、さらには太陽活動によって電離層の状態が変化し、電波の伝搬に影響を与えます。例えば、夜間にはD層が消失し反射が強くなるため、より遠方の通信が可能になります。   スポラディックE層(Es層) 夏には、100km前後に突発的に形成されるスポラディックE層が現れることがあります。これにより通常は反射しないVHF帯(30MHz~300MHz)の電波も反射され、特別な遠距離通信が可能になることがあります。この現象は「異常伝搬」の一種といえます。
回折 (回り込み)電波は障害物にぶつかると、その表面を回り込んで広がることがあります。特に波長が長い低周波の電波に顕著な特徴で、これにより山の裏側でもラジオが受信できるのです。
吸収と遮断電波は通り抜ける素材と反射する素材に影響を受けます。木材やガラスなどは比較的通過できる一方、金属やコンクリートは遮断されることが多いです。また、大気や雨によっても吸収され、特に高い周波数ではその影響が強く現れます。
干渉異なる電波同士が同じ場所でぶつかり合うと、互いに影響を及ぼすことがあります。これを「干渉」といい、複数のWi-Fiネットワークが干渉して速度が遅くなるなどの現象を引き起こします。

未来へ広がる電波の可能性

電波は私たちの暮らしに欠かせない資源です。現在では新技術の5GやIoT(モノのインターネット)の普及によって、高周波帯の利用が広がり、ますます高度化する通信の世界を支えています。また、宇宙通信や地球外生命体探索など、「電波」は科学の限界にも挑み続けています。

私たちが日常的に使うスマートフォンの画面に表示される情報も、ほんの一瞬の間に何万キロもの距離を電波が駆け巡ることで成り立っています。その背後には、見えない波が織りなす壮大なドラマが隠されているのです。

終わりに

私たちは普段、電波を意識することなくその恩恵を受けていますが、その特性や動きについて深く知ることで、電波がいかにして生活に寄与しているのかを改めて感じることができます。電波の不思議は、古代より人々を惹きつけ、現在も未来の科学を支える原動力となっているのです。

次にスマホを手にするときには、電波がどのようにして私たちの声やデータを届けているのか、少しだけ思いを馳せてみてはいかがでしょうか?

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