製品開発振り返り
交流電源QAシリーズの熱設計

新製品QAシリーズの販売開始と評価試験
当社主力製品の一つである大容量プログラマブル交流電源(QAシリーズ)は、2023年8月より販売を開始しました。開発当時、設計工程が完了し、製品評価として温度上昇及び内部発熱試験を行いました。この試験は、仕様温度範囲において、内部発熱箇所の温度上昇を確認する重要な試験です。
勿論、整流ダイオードやIGBTなど、装置内部の発熱部品は熱解析シミュレーションにより適切な放熱設計がなされており、トランス、リアクトル等の受動部品もそれぞれの容量を考慮した構造設計となっており、試験は問題無く終了するものという目論見でした。
実機試験での想定外の課題
ところが実機による試験の結果は違いました。搭載しているトランスが発熱するという問題に直面しました。結論から先に言うと、この問題はトランスの再設計により解決するのですが、その間、原因の特定と対策、再評価による予定外の工数が発生し、この熱問題が原因で当初の開発計画を大幅に遅延する結果となってしまいました。
熱問題に対する電気設計者の課題
私は電気設計者なので開発の全体を見ることが多いのですが、電気のエンジニアには熱の問題に対しては苦手な方も多いのではないでしょうか。このように、試作評価のフェーズで熱設計に問題が発生すると、場合によっては構造設計から見直したり追加の放熱対策が必要になる等、設計の後戻りと追加の開発費が増大します。(余談ですが、もう一つEMC設計も難しいですよねぇ、これはまたの機会で報告します)
熱解析シミュレーションの重要性
さて、こうした熱問題を事前に予見し回避するためには、やはり熱解析シミュレーションを行うことが一番ではないでしょうか?ただし、当社では熱シミュレーションは主に構造設計にて行うため、電気設計者はそれに必要な情報を機構設計者へ、インプットすることがメインの役割になります。そのため、インプットした情報がそもそも間違っていたり、正確性を欠いていたりすると当然解析結果も間違ったものになります。最初に述べた熱問題を事前に回避する一番のポイントは、正確な熱損失データを元にした熱解析シミュレーションができるかどうかです。電気設計者は重要性を認識し、熱損失を正確に計算しインプットする必要があります。
熱問題への取り組みとエンジニアの責任
製品開発における熱問題は、多くの対策が存在する一方で、なかなか決定打が見つからず長期化するケースも少なくありません。また、設計段階での責任の所在が曖昧になりがちで、厄介な課題となることもあります。しかし、いかなる規模の製品でも、「熱問題は避けて通れないモノづくりの一つ」です。エンジニアの皆さんには、覚悟を持ってしっかりと対処にあたっていただきたいと思います。
執筆者:T.M